相続するつもりの賃貸アパートに抵当権が!どうする?

こんにちは。こうづ行政書士FP事務所 行政書士の髙津です。
ご財産が多い方もしくは旧来からの地主の方でよくみられるケースとして、所有する土地に賃貸アパート(マンション)を建て、
相続税の圧縮先祖代々の土地を守るといった対策があります。
その賃貸アパートは銀行等からの借入で建てることが一般的(相続税支払余力の確保のため等)ですが、
借入をすると、その物件に抵当権がつきます。
ではこの抵当権付きの不動産はどのように相続すればいいでしょうか?
ご相談の実例をもとに、以下簡単にまとめました。

目次

ご相談事例

父が亡くなりました。
父は生前、所有する土地にアパート(土地建物)を建てていて、

長男の私に相続させるという遺言を残していました。
このアパートには、購入の際に銀行から借り入れた債務を担保するための抵当権が設定されており、
遺言ではこの抵当権付債務も私が全額支払うものとされています。
どのような手続をすればよいのでしょうか?

ご回答のポイント

  • 債務の相続については、銀行に承認を得る必要があります。
  • 土地建物について、遺言により相続を原因とする所有権移転登記申請をします。
  • 遺言による債務の承継について、抵当権の債務者の変更登記申請をします。

ご回答

STEP

債務の相続について

金銭債務は可分債務であり、可分債務は債務者の死亡により当然に各相続人の相続分に応じて分割される
と解されています。
相続人の一部の者に債務を負担させる旨の遺言がなされていても、その遺言によって特定の相続人が直接に債務者となるもので
はありません。

相続人相互間では、遺言に従って債務の承継をすることはできますが、
抵当権の債務者を特定の相続人に変更するには、抵当権者と交渉し、抵当権者の承諾を得ることが必要です。相続人は抵当権者との間で話合いをし、抵当権者が承諾した場合に、さかのぼって相続を原因として、特定の相続人を債務者とする変更登記をしていくことになります。
抵当権者の承諾が得られない場合には、法定相続により相続人全員を債務者とする抵当権変更登記をすることになります

STEP

遺言による相続登記申請

特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言は、遺言書の記載からその趣旨が遺贈であることが明らかであるかまたは遺贈と解すべき特段の事情のない限り、その遺産をその相続人に単独で相続させる遺産分割の方法が指定されたものと解されます。
そして、その遺言において相続による承継をその相続人の意思にかからせるなどの特段の事情がない限り、
何らの行為なくしてその遺産は被相続人の死亡の時に直ちにその相続人に相続により承継されるとされています。

そこで、「相続させる」旨の遺言に基づいて、
相続人は単独でその不動産を被相続人名義から直接自己名義にする登記申請ができます

遺言書が自筆証書遺言であった場合
なお、遺言書(公正証書遺言及び自筆証書遺言の保管制度を利用した遺言を除きます。)の保管者またはこれを発見した相続人は、
遺言者の死亡を知った後、遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して、その「検認」を請求しなければなりません。
また、封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人等の立会いのもと開封しなければならないことになっています。
詳細は、以下コラムをご参照ください。

共同相続における権利の承継の対抗要件について
相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、法定相続分等を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができません。
ご注意ください。

STEP

抵当権の債務者変更登記申請

債務を相続する手続きについては、STEP1の通りです。
まずは債務者・抵当権者と交渉してください。
債務者・抵当権者から承認が得られましたら、抵当権変更登記をすることになります

登記原因は、遺言により債務の相続の指定がなされたこと、この指定を抵当権者が承諾したことです。
これを証明するものが、登記原因証明情報になります。
なお、抵当権者はこの登記申請の登記権利者となっており、指定を承諾していることは明らかです。
しかし、新不動産登記法により登記原因証明情報の提供が必須化され、これによって登記の原因となる事実または法律行為を証明すべきものとされました。
このことから、申請人が行った行為であっても、その行為が登記原因となる事実または法律行為の要件である場合には、その行為があった事実について登記原因証明情報として提供を要するものと解されています。
なので、抵当権者が承諾した事実も、本件の登記申請の登記原因証明情報として提供しなければなりません。

まとめ・所感

一番大事なことは、債務の承継者について遺言がなされていても、その遺言によって特定の相続人が直接に債務者となるものではない
ということです。
債務者(銀行等)の立場になるとわかりやすいと思いますが、
お金を貸している人が相続によって全く資力のない人に突然代わってしまったら、お金は返済されず、不良債権になってしまう…
困るわけです。
なので、ここは民法で保護されており、債権者の承認が必要とされています。

借金(債務)は、相続税の圧縮や相続税の支払余力の確保等のメリットがある一方で、資産に対して借入過多(債務超過)になってしまったり、アパート経営がうまくいかないエリアでアパートを建ててしまい赤字経営となってしまったりと、リスクも大きいです。
今回の事例のようなアパート経営をされる場合は、ご自身の財産とキャッシュフロー、相続税の見込支払額、所有する土地のニーズや今後の人口分布等、総合的に勘案し、冷静にご判断いただければと思います。
アパート経営に関するセカンドオピニオン等も、ご相談が可能ですので、お問い合わせください。

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