配偶者短期居住権は遺留分侵害額請求の対象となるのか?

こんにちは。こうづ行政書士FP事務所 行政書士の髙津です。
配偶者短期居住権とは、亡くなった方の配偶者が、しばらくの間、居住建物を無償で使用することができる権利のことです。
故人と長年同居していたのに、相続が発生していきなり住めなくなってしまっては大変!
配偶者を守るための権利となっています。
さて、この配偶者短期居住権ですが、遺留分侵害額請求の対象となるのでしょうか?
ご相談の実例をもとに、以下簡単にまとめました。

遺留分関連については、以下コラムをご参照ください。

目次

ご相談事例

夫が亡くなりました。
遺言書に従い、私と2人の子どもが遺産をそれぞれ相続するとともに、
亡くなった夫と私が一緒に居住していた夫の所有する住宅につき、私が配偶者短期居住権を取得しました。
この度、長男から遺留分侵害額請求をされましたが、

配偶者短期居住権は私の相続分に含まれ、遺留分侵害額の対象となるのでしょうか?

ご回答のポイント

  • 配偶者短期居住権は遺留分侵害額請求の対象にはなりません。
    したがって、長男の相談者に対する遺留分侵害額請求は理由がないものと考えられます。
  • もっとも、相談者が遺言で取得した他の相続財産が長男の遺留分を侵害している場合、
    その限度で長男の請求は認められることになります。

ご回答

STEP

配偶者短期居住権とは?

配偶者短期居住権とは、

⑴被相続人の配偶者(以下「生存配偶者」といいます。)が、
⑵被相続人所有の建物に
⑶相続開始時点で
⑷無償で居住しており
⑸現時点においてもなお当該建物(以下「居住建物」といいます。)に居住している場合、
下記類型ごとに定められた期間、居住建物を無償で使用することのできる権利をいいます。

下記類型ごとに定められた期間

①居住建物について生存配偶者を含む共同相続人間で遺産分割をする場合、
遺産分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始時から6か月経過した日のいずれか遅い日

②①と異なり、生存配偶者が居住建物について遺産分割の当事者とならない場合(例えば、配偶者以外の第三者に居住建物全部を「相続させる遺言」(特定財産承継遺言)がされた場合、配偶者が相続放棄した場合等)、
居住建物の所有権を取得した者が配偶者短期居住権の消滅を申し入れた日から6か月を経過した日

までの間、生存配偶者は居住建物取得者に対し配偶者短期居住権を主張することができます
前記①②の期間が経過した場合、生存配偶者は相続開始後に居住建物に附属させた物を収去し、
相続開始時点の原状に復して居住建物取得者に明け渡さなければなりません。

STEP

配偶者短期居住権は配偶者の具体的相続分に含まれるか?

結論からいうと、生存配偶者が配偶者短期居住権により得た利益については、配偶者の具体的相続分には含めないとされています。
上記、STEP1で詳述したとおり、配偶者短期居住権は生存配偶者の居住権保護を目的とする使用借権類似の法定債権ですので、
これにより取得した利益を生存配偶者の具体的相続分から控除することは、制度創設の趣旨に反します。

実際、配偶者短期居住権創設の参考とされた前掲最高裁平成8年12月17日判決も、生存配偶者は被相続人の死亡を始期とする使用借権を取得したにすぎず、相続によって何等かの権利を承継したわけではないこと、使用借権の取得は生前贈与にも当たらないことを理由に、使用貸借契約によって得られた利益を配偶者の具体的相続分から控除することは予定していないものと考えられます。

そこで、中間試案では、「短期居住権の取得によって得た利益は、(生存)配偶者が遺産分割において取得すべき財産の額(具体的相続分額)に算入しないものとする」としました。
このように解しても、配偶者短期居住権は流動性がなく財産的価値がそもそも僅少ですから、生存配偶者を他の相続人に比して不当に利することにはならず、共同相続人間の平等を害する可能性は低いものと考えます。

STEP

配偶者短期居住権は遺留分侵害額請求の対象となるか

上記、STEP2の通り、配偶者短期居住権が生存配偶者の具体的相続分に含まれないことの帰結として、
配偶者短期居住権は遺留分侵害額請求の対象にはなりません。
したがって、本件において長男が相談者に対して行使した遺留分侵害額請求は、理由がないものと考えられます。
もっとも、相談者が遺言で取得した他の相続財産が長男の遺留分を侵害している場合、その限度で長男の請求は認められることになります。

まとめ・所感

配偶者短期居住権は民法改正によりできた制度です。
趣旨は、配偶者の居住を一時的に守ることです。
なので、この配偶者短期居住権に対しての、遺留分侵害額請求はその趣旨に反し、できないというのが結論です。
一方、施行から数年ですので、今後意見が違う判例が出る可能性もあります。
ご不明な点等ございましたら、お問い合わせください。

受付時間
平日 9:00〜17:30

日程を調整いたしますので、事務所にご来所の際も事前にご連絡をお願いいたします。

受付時間
9:30〜17:00
(土日祝を除く)

日程を調整いたしますので、事務所にご来所の際も事前にご連絡をお願いいたします。

目次