相続人に判断能力がない人がいる…どうする?

こんにちは。こうづ行政書士FP事務所 行政書士の髙津です。
ご相続が発生した場合、故人の財産を相続人全員で分けるため、遺産分割協議を行います。
ただ、相続人の中に判断能力がない人がいる場合、どのようにすれば遺産分割協議ができるのでしょうか?
先に結論ですが、判断能力がない人は、遺産分割協議(遺産をどう分けるのかの話し合い)はできませんので、
成年後見人の申立てをする必要があります。
実例をもとに、以下簡単にまとめました。

目次

ご相談事例

父が亡くなりました。
相続人は、母と私(長女)の2人ですが、母は認知症で老人ホームに入っており、

判断能力がない状態です。
遺産分割の手続きはどのようにすればいいでしょうか?

ご回答のポイント

  • 相続人の中に、精神上の障害により判断能力を欠く常況にある者がおり、遺産分割協議ができないときは、
    家庭裁判所に成年後見開始の申立てをします。
  • 選任された成年後見人と遺産分割協議をします。
  • 遺産分割協議につき急を要し、成年後見人選任を待てない場合は、成年後見開始の申立てと同時またはその後に財産管理者の選任申立てをすることができます。

ご回答

STEP

後見開始の申立て

遺産分割に必要な能力とは?

遺産分割は、被相続人の財産の共同相続人による共有状態を解消して、具体的に分割する手続きです。
財産契約であって、法律行為ですから、これをするには判断能力が必要です。
難しい言い回しですよね…
財産を相続人で話し合いをして、どう分けるのかまたは、自分はどの財産がほしいのか主張する等は、判断能力がなければ、
難しい行為ですよね。
という意味です。
判断能力がない者と協議しても無効となってしまいますので、遺産分割協議に当たっては、まず成年後見人を付する必要があります。

後見・保佐・補助について

判断能力がないと聞いてイメージするのは、認知症ではないでしょうか。
現に後見開始の申立てをする場合に、認知症として申立てをするケースが一番多いことは、家庭裁判所のデータからもわかります。
ただ、認知症といっても症状・程度も様々です。
今回の事例のように、契約締結や財産管理のために援助が必要となった場合は、
判断能力が欠く常況にある者については、後見開始
・判断能力が著しく不十分である者については、保佐開始
・判断能力が不十分である者については、補助開始
の審判を求めます。
とはいえ、ご本人の状態が上記3つのどれに該当するかはなかなか判断できません。もちろん私も確定してこれですということは難しいです。
なので、唯一判断できる医師の診断書を添付して申立てをするわけです。
また、選任される保佐人・補助人は、家庭裁判所から代理権を与えられない限り、遺産分割を本人に代わって行うことはできませんので、申立ての際はご注意ください。

必要書類

・本人の戸籍謄本等
・本人の住民票または戸籍附票
・成年後見人候補者の住民票または戸籍附票
・本人に対する医師の診断書(家庭裁判所が定める様式)
・本人の成年後見登記等に関する登記がされていないことの証明書(法務局・地方法務局の本局で発行するもの)
・本人の財産に関する資料
※その他、各裁判所の定めるところにより、身分関係についての資料・手続きの円滑な進行を図るために必要な資料の提出を求められる場合があります。

申立時期

遺産分割手続前

申立人

本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人または検察官

申立先

成年被後見人となるべき者の住所地を管轄する家庭裁判所

申立費用

収入印紙800円、予納郵便切手(裁判所の定めるところによる)、予納収入印紙2,600円、鑑定料

STEP

成年後見人と遺産分割協議をする

成年後見人は、成年被後見人(本人)を代理し、その利益を考え遺産分割協議をすることになります。
遺産分割協議が成立し、遺産分割協議書を作成する場合はには、その署名欄に成年後見人が、
「〇〇〇〇 成年後見人 〇〇〇〇」と署名し、成年後見人の実印を押印します。

STEP

財産管理者の申立て

急いで分割しなければならない場合

上記後見開始の申立てをしても、審判が確定するまでに時間がかかります。
もろもろ含めて2~6ヶ月はみておいたほうがよろしいかと思います。
成年後見人等の選任を待っていては取り返しのつかない損害が生じるような急迫な事情がある場合には、
家庭裁判所は審判前の保全処分として、財産管理者を選任することができます。
したがって、早急に遺産分割をする必要がある場合には、後見等開始申立てと同時またはその後に、財産管理者の選任申立てを行います。
ただし、後見開始・後見人選任までの期間は、以前に比べてかなり短縮されています(上記記載の期間を幅広く書いたのはこれが理由です)ので、それを待てないほどの早急に遺産分割が必要な場合というのは、ごく稀と思われます。

添付書類
  • 遺産分割協議書(案)
  • その他、各裁判所の定めるところによる
申立時期

後見開始審判申立て時より遺産分割協議前随時

申立人

事件の関係人

申立先

後見等開始審判事件が係属している家庭裁判所(本案審判事件が高等裁判所に係属しているときは、当該高等裁判所

申立費用

収入印紙不要・予納郵便切手(各裁判所の定めるところによる)

まとめ・所感

成年後見人になる人は、資格等の要件はありません。誰でもなることが可能です。
多くの場合、ご親族のどなたかを後見人にしたいと思われるケースが多いのではないでしょうか。
ですが、そのような申立てに対して、家庭裁判所が選任するのは、専門家(弁護士、司法書士、社会福祉士、行政書士等)が多いのが実情です。
この一因もあり、ご家族からは、「使いにくい制度だ」という声をよく聞きますし、うわさが拡がってしまったため、
普及率がなかなか伸びていません。
もちろんお気持ちはとても良くわかります。
なので、私の立場的に「これは本当に難しいなぁ」と思います…

成年後見人としての任務はとても難しいのです。
お一人の方の身上監護や財産管理をしていくことは、やはり法律の知識、社会福祉等等の知識、お金の知識、(本人を支えていくという使命感)等、かなり幅広く知識と経験がないと難しいですし、成年後見人になったご親族様のご負担は大きいです。
また、一度後見人になると、ご本人様がお亡くなりになるまで生涯にわたって、後見事務をしていくことになります(ご本人が回復された場合除く)。
当然、ご本人と同世代の方が後見人となるのは、ハードルが高いのはお分かりかと思います。
上記にも書きましたが、後見人はご本人の利益を最優先に生活と財産を守るのが任務です。ご親族様にとって敵ではなく、味方です。
ご本人のために後見制度があることを、お忘れなく、日本の良き法律を信じてくださると、個人的には嬉しいです。
日本は高齢社会ですし、これからの情勢的にもこの制度がさらに普及していかなければなりません。
この制度がより良くなるよう、とても微力ではありますが、私も貢献していきたいと思っております。

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