「相続させる」遺言の遺言執行者の対応は?財産別に書きました。

こんにちは。こうづ行政書士FP事務所 行政書士の髙津です。
ご相続が発生した場合、故人が生前に遺言書を作成していることがあります。
遺言書は、簡単にいいますと、財産をだれにどう分けるのかを書くものですが、その一つに遺言執行者の指定があります。
遺言執行者とは、簡単にいえば、遺言の内容を実現する人で、手続きする人です。
遺言書が「相続させる」の内容であった場合、この遺言執行者にはどのような対応が求められるでしょうか?
実例をもとに、以下簡単にまとめました。

目次

ご相談事例

夫が亡くなりました。
夫は生前に遺言書を遺しており、「妻に建物を相続させる」とする記載がありました。
また、私が遺言執行者に指定されているのですが、どのような対応が求められるでしょうか?

ご回答のポイント

  • 遺言の「相続させる」という文言は、
    遺言者の記載から遺贈であることが明らかであるか遺贈と解すべき特段の事業がない限り、

    遺産分割の方法の指定とされます。
  • 建物は何らの行為を要せずして、被相続人(夫)の死亡の時に直ちに当該相続人(妻)に承継されます。

ご回答

STEP

「相続させる」文言の遺言の法的性質

特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」という文言の遺言の法的性質については、
遺言者の記載から遺贈であることが明らかであるか遺贈と解すべき特段の事情がない限り、遺産分割の方法の指定とされますので、遺言書に記載された遺産は何らの行為を要せずして(遺産分割も不要です)、
被相続人の死亡の時に直ちに相続人が確定的に取得することとなります(最判平3・4・19判時1384・24)。

なお、この「特段の事情」については、遺言作成の前後の事情、被相続人の生前の言動、遺言どおりに分割された場合に不都合はないか、遺言の効力を維持することで相続開始後の方が混乱を招かないか等、諸般の事情を総合的に慎重に検討する必要があります。

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「相続させる」旨の遺言について執行行為の余地はあるか?

上記のとおり、被相続人死亡の時に直ちに相続人が遺産を確定的に取得するなら、相続人が単独で移転登記等の手続も行うことができるので、遺言執行者として執行行為の余地はないようにも思われます。
しかし、最高裁平成11年12月16日判決は、相続させる遺言が、即時の権利移転の効力を有するからといって、
当該遺言の内容を具体的に実現するための執行行為が当然に不要になるというものではないと判断しましたので、遺産の性質によっては遺言執行者において執行行為を行う必要があるものもあります。
以下の場合で、解釈を書いてみます。

不動産の場合

前述のとおり、「特定の遺産を特定の相続人に相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言)は、原則として遺産分割方法の指定と考えられますから、被相続人の死亡時に直ちに当該財産が当該相続人に、「相続」を原因として承継されます。
そのため、「相続」を原因とする所有権移転登記は、当該相続人が単独で申請することができます

令和5年4月1日より、相続人に対する遺贈の場合においても、相続人(受遺者)は単独で所有権移転登記の申請ができるようになりました。

他方、特定財産承継遺言があったときは、遺言執行者は、当該相続人が対抗要件を具備するために必要な行為をすることができる
との規定が新たに設けられました。
そのため、特定承継財産が不動産である場合、当該不動産を承継する当該相続人のみならず、遺言執行者も所有権移転登記の申請権限があることになります。

銀行預金等その他の場合

特定承継財産が預貯金債権である場合、遺言執行者は、①預貯金の払戻請求、及び②預貯金契約の解約の申入れをする権限を有します
ただし、遺言者がその遺言で別段の意思を表示した場合は、遺言者の意思に従います。

なお、預貯金契約の解約の申入れは、遺言で対象とされた財産が当該預貯金債権の「全部」である時に限ってすることができます。
すなわち、預貯金契約の解約は、預貯金契約者としての地位を承継した共同相続人全員によってされなければならず、預貯金債権の一部についてのみ特定財産承継遺言がされたにすぎない場合、当該部分に係る預貯金の払戻請求は、遺言中に別段の意思が示されていない限り、遺言執行者が行うことができます。

「相続させる」旨の遺言は、指定された相続人が遺言者より先に死亡した場合には、その代襲相続人に相続させる意思があったと解される場合を除き当然に失効するとされています(東京地判平6・7・13金判983・44)。
したがって、この場合、遺言の効力自体がない以上、執行行為もできませんので、注意してください。

予備的遺言については、以下コラムをご参照ください。

まとめ・所感

遺言にて、遺言執行者に指定されている場合は、ご相続発生後、遺言執行者に就職するかを検討しなければなりません。
今回の事例では、「相続させる」旨の遺言について、法的性質等を書きましたが、執行行為の要否については、相続人と十分に協議した上で
行うことが望ましいです。
なので、相続が発生しましたら、速やかに遺言の内容等を相続人へ通知し、方針を協議することが大事です。
なお、手続き等が難しい場合は、遺言執行者から委任を受けて、当事務所で手続きを進めることができます。
お困り方がおられましたら、お気軽にお問い合わせください。

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