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付言事項とは?
こんにちは。こうづ行政書士FP事務所 行政書士の髙津です。
ご相続対策として、ご生前に財産をだれにどう相続させるのか(遺贈するのか)を決めることができるのが遺言書ですが、
『付言事項』というものを書くことができることをご存知でしょうか?
今回は、その『付言事項』について、ご説明したいと思います。
ご相談の実例をもとに、以下簡単にまとめました。
ご相談事例
子どもたちが相続争いにならないよう、遺言書の作成を考えています。
知人から遺言書に「付言事項」を入れておくと、争いを防ぎやすくなると聞きました。
どのようなものなのでしょうか?
ご回答のポイント
- 遺言事項は法律上限定されており、遺言事項のみが法的効力を認められますが、
遺言者は遺言事項ではない事項(付言事項)を遺言書に記載することができます。 - 付言事項には法的効力はないので、紛争を必ず防止できるわけではありません。
- 関係者が付言事項に記載された遺言者の遺言作成の動機や遺言者の認識に納得すれば、
遺言の内容が尊重され、争いを防ぐことができます。
ご回答
付言事項とは?
遺言は、遺言者の一方的な意思表示によってその内容どおりの効力を発生させ、関係者の利害関係に大きな影響を与えます。
そこで、遺言の明確性を確保して紛争を防止するため、遺言をすることができる事項(遺言事項)は法律上限定されてお
り、遺言事項のみに法的効力が認められています。例えば、遺贈、相続分の指定などが代表的な遺言事項です。
付言事項とは、遺言者が、遺言事項ではない事項について、遺言者自身の認識を記載したものです。
このような付言事項を遺言書に記載することは可能ですし、その内容に制限はありません。
もっとも、付言事項は、遺言事項ではないのですから、法的効力はありません。
例えば、遺言者が第三者Xに財産のすべてを遺贈し、その遺言書の付言事項に「Xは長年私の面倒を見てくれて、その間の苦労は他の子どもたちと比べてずっと大きかったから、私は財産の全部をXに遺贈することにしました。長女、二女及び長男は私の気持ちを汲んで遺留分の主張をしないでください。」と記載しても、遺留分の主張を法的に制限することはできません。
つまり、付言事項によって後日の紛争を必ず防止できるわけではありません。
そのような付言事項には意味がないかのように思われるかもしれません。
しかし、付言事項の内容は自由であり、遺言者は遺言作成の動機や遺言者の認識を明らかにすることができます。
遺言者がなぜそのような内容の遺言にしたのかについて、関係者に遺言者の思いを伝え、付言事項によって関係者の心を動かし、
関係者が納得してくれれば、遺言の内容が尊重され、結果として争いを防ぐことができます。
付言事項の作成方針
それでは、付言事項はどのように書くべきでしょうか。
結論からいうと、遺言者がその遺言で何を実現したいのかを見定めて、それに役立つ付言事項とすべきです。
例えば、遺言者が、ある相続人A、Bのうち、Aに特別受益が存在することを考慮してAの取り分を減らした遺言を作成した場合、付言事項に「Aに平成○○年○月○日に生活援助資金として300万円を贈与したので、この特別受益の分を考えて遺産を配分しました。」と記載することが考えられます。
この付言事項では、特別受益に関する遺言者の認識を明らかにした上で、遺言者がどうしてAの取り分を減らした遺言を作成したのかについて、動機が明らかにされています。
また、例えば、遺言者が遺言によって推定相続人の廃除をしたい場合、単に遺言事項で推定相続人Cを廃除すると記載するだけでは、全く材料がありませんので、遺言執行者が廃除の請求をしても認められない結果になりかねません。
付言事項で廃除の要件に関する具体的事実を記載することが考えられます。
このように、遺言者が自分の遺言で何を実現したいかについては、個別具体的な事案ごとに異なりますので、付言事項もケース・バイ・ケースで考える必要があります。
付言事項の作成において留意すべき点としては、遺言書には証拠を添付することはできませんから、付言事項の内容が「Dが家を買うときに援助した」というような抽象的なものでは、何のことを指しているのか分からなくなるおそれがあります。
内容は、できるだけ具体的にして(「Dが○○に所在する自宅を購入する際に平成○年○月○日に○○円を○○銀行(普通 口座番号○○)に振込送金して贈与した」)、分かりやすくする方が効果的です。
また、証拠は別途整理して保管しておくと良いでしょう。
付言事項の書き方の留意点としては、付言事項には法的効力はなく、関係者に納得していただく必要がありますから、
感情的な記載や関係者を一方的に非難するような記載は、かえって付言事項に納得を得られない結果となるおそれがあります。
付言事項のせいで遺言の効力が紛争となった例
付言事項を詳細にすればするだけ、遺言者の認識が明らかになるのですが、詳細にすればよいというものではありません。
付言事項に記載された遺言者の認識は、客観的な事実であるとは限りません。
いわば遺言者の一方的な認識が記載されたものですから、事実と違うことを書けば書くほど、関係者の納得は得られなくなるおそれがあります。
それだけでなく、次のようなケースでは、付言事項を材料に遺言の効力が争われています。
公正証書遺言では、遺言者が遺言の趣旨を公証人に「口授」することが必要とされています。
口授とは、遺言意思の真正さを担保するため、遺言者が遺言の内容を公証人に直接に口頭で伝えることですが、付言事項の内容が虚偽であるから、このような虚偽の記載がされたことは適式な口授を欠いていたとの主張がされた例があります。
また、付言事項が事実ではないから、遺言に動機の錯誤があるとして争われた例もあります。
以上の3つの裁判例は、結論として遺言を有効としましたが、付言事項を契機として遺言の効力が紛争になった例として参考になります。
さらには、付言事項が事実ではないことなどを考慮して遺言者の遺言能力が否定された例や、複雑な付言事項をした遺言について、認知症の状況に鑑みて自己の遺言内容自体も理解及び記憶できる状態でなかった蓋然性が高いと判断された事例もあります。
このように、付言事項を個別具体的にしようとするあまり、事実に誤りや不正確がある記載が混入すると、付言事項から遺言全体の効力が否定されるおそれがあるといえます。
付言事項は無闇に詳しく記載すればいいというものではありません。
まとめ・所感
付言事項は、いわばご相続人様に送る最後の手紙といってもいいと思います。
ですが、自分本位に書いてしまうと、上記の通り、せっかく書いた遺言書も付言事項のせいで争いになってしまうといった、
本末転倒なことにもなりかねません。
付言事項は相続人に配慮し、なるべく客観的な事実で書くことが重要です。
もちろん書かないという選択肢もありますので、どうするか迷われている場合は、ご相談いただければと思います。
また、付言事項はあくまでも法的効力のない付言にすぎませんので、
法的効力が生じる遺言事項の内容を固めることが重要であることを忘れてはいけません。
遺言書の本体はあくまでも遺言事項であり、法的効力も遺言事項にしかありませんから、そちらをまずはしっかりと作成することが大事です。あくまでもそれができてから、付言事項で遺言者の遺言書作成の動機や遺言者の認識を効果的に明らかにすることを目指すべきと考えます。