カーボン紙を用いた自筆証書遺言は有効なのか?

こんにちは。こうづ行政書士FP事務所 行政書士の髙津です。
自筆証書遺言はその名の通り、遺言者が自筆で書かなければ有効にならない遺言のことですが、カーボン紙を用いて、
複写の方法で記載した自筆証書遺言は有効なのでしょうか?
判例に基づいてご説明します。

目次

判例の概要

  • 遺言者Aが、B5版罫紙4枚をつづり合わせ、カーボン紙を用いて複写の方法によって記載し、各紙をAの印章により契印した自筆証書遺言を作成した。
  • 4枚つづりのうち1枚目から3枚目はA名義で、A所有の不動産をAと後妻Bとの間の子2名に遺贈する旨が記載され、4枚目はB名義で、B所有の不動産をAとBとの間の子1名に遺贈する旨が記載されている。しかし、いずれの部分もAがすべてカーボン紙を用いて記載したもので、Bは作成に関与していない。また、AとBのいずれの名義の部分も、それぞれ独立に自筆証書遺言の形を備えたものであった。
  • Aの死亡後、AとAの先妻との間の子が、カーボン紙を用いた複写の方法による記載は、自筆証書遺言の「自書」に当たらないとして、Aの自筆証書遺言の無効確認を求めた。
  • 1審・2審とも、カーボン紙を用いた複写の方法によっても本人の筆跡が残ること、偽造等の危険性も特に大きくないことなどを指摘し、カーボン紙を用いた複写の方法による記載の場合にも
    「自書」に当たると判断し、本件遺言の1枚目ないし3枚目はAの自筆証書遺言として有効であるとした。

結論、遺言者Aが書いた1枚目~3枚目までの遺言書はカーボン紙で書かれたとしても、
『自書』であることから、有効であるということです。
一方、4枚目は後妻Bが『自書』したものではありませんから、無効となります。

まとめ・所感

民法968条1項が自筆証書遺言について「自書」を要件としている趣旨は、
筆跡によって本人が書いたものであることを判定でき、それ自体で遺言が遺言者の真意に出たものであることを保障することができるから」と解されています。
本件は、カーボン紙を用いた複写の方法による記載でも、筆跡はそのまま残ることから、本人が書いたものであることの判定が可能であり、
遺言者の真意に出たものであることを保障するという「自書」の要件の趣旨を満たすと判断したものと考えられます。

自筆証書遺言が最も簡易な方式の遺言であるだけに、偽造、変造など後日の紛争を引き起こしやすいことから、
その本質的要件である「自書」の要件については厳格でなければなりませんが、
カーボン紙を利用したこと自体で偽造、変造が容易になるとまではいえません。

また、カーボン紙も筆記具にすぎないと考えれば、法は筆記具について制限していませんし、カーボン紙を用いた複写の方法による記載もやはり「自書」には違いないとの解釈が可能であり、本件の結論が支持されるものと考えられます。

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