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葬式費用を遺産分割で協議できるのか?
こんにちは。こうづ行政書士FP事務所 行政書士の髙津です。
多くの場合、故人のご相続人がご葬儀を執り行いますが、その葬儀費用について、遺産分割協議の対象となるのかどうかを書きました。
ご相談の実例をもとに、以下簡単にまとめています。
ご相談事例
父が亡くなりました。
長男が、私たちに相談することなく、喪主となって葬儀を行いました。母も既に亡くなっていたので、
相続人は子供である私たち3人ですが、長男は葬儀に300万円かかって自分が出したから遺産を引き継ぐべきだと主張しています。
しかし、その明細も、また香典の明細も見せてくれません。
遺産分割協議ではどうすればよいでしょうか?
ご回答のポイント
- 葬儀費用の負担を含めた遺産分割協議ができたときは、その旨を盛り込んだ遺産分割協議書を作成します。
- 相続人間で合意ができないときには民事訴訟で解決することになります。
ご回答
葬儀費用の負担を含めた遺産分割協議書を作成する
- 葬儀費用と遺産分割の関係
-
葬儀費用とは、多義的な意味がありますが、一般的には、死者を悼む儀式および埋葬等にかかる費用をいいます。
葬儀費用は被相続人の死後に発生する費用ですので、遺産分割の対象とはならず、
本来は民事訴訟手続で解決すべき事項です。
しかし、相続人間の合意があれば、遺産分割協議の中で付随的問題として協議し、
葬儀費用の負担について解決することも可能です。
もっとも、葬儀費用の負担を主張する側が資料を提出しないなど、手続に協力しない場合は、原則どおり、
遺産分割手続とは切り離すべきです。 - 葬儀費用の負担者
-
それでは、葬儀費用は誰が負担するべきでしょうか。
相続人間で合意できれば、その合意により負担者を決することになりますが、合意できない場合には、
最終的には民事訴訟で裁判所が判断することになります。
その場合、裁判所はどのような判断をするのでしょうか。
被相続人が遺言等で葬儀費用の負担につき指示した場合には、裁判所は、その指示を尊重することになると思われますが、
そのような指示もない場合には、法律上の明文規定もないため問題となります。
この点、学説としては、
①葬儀を執り行った喪主が負担すべきとする説(喪主負担説)、
②相続人が共同で負担すべきであるとする説(相続人負担説)、
③被相続人の遺産から支出すべきであるとする説(相続財産負担説)、
④葬儀費用の負担は、専らその地方または死者の属する親族団体内における慣習もしくは条理によって決するとする説(慣習・条理説)
があります。
これに対し、判例は様々です。
最近の判例では喪主負担とするものが比較的多いことは事実ですが決定的なものとはいえません。
結局、この問題は、葬儀に対する相続人の関与の程度や、葬儀費用の内容・金額、各相続人が相続する遺産の内容等を考慮して、個別事案ごとに判断するほかありません。
葬儀費用について、遺産分割の付随的問題として協議するか否かを判断する際には、以上のような事情を念頭に置く必要があります。 - 葬儀費用の内容
-
葬儀費用の負担について遺産分割の付随的問題として協議するとしても、その場合の葬儀費用の範囲はどう考えるべきでしょうか。
葬儀費用とは、死者を悼む儀式および埋葬等にかかる費用をいいますが、その内容は様々です。
そのため、墓地購入費や初七日・四十九日法要、さらには7回忌等の年忌法要の費用まで請求されることもあり、どの範囲の葬儀費用を協議の対象とすべきか争いとなることも少なくありません。この点、これも最終的には事案ごとの判断となりますが、実務的には、
遺体の搬送、棺桶その他の祭具、通夜・告別式の費用、僧侶等に対するお布施、火葬の費用などは葬儀費用として協議の対象とする一方、葬儀後の初七日、四十九日法要、年忌法要、墓地・墓石の費用等については祭祀主催者が負担すべきものとして協議の対象から外すのが一般的です。
したがって、相続人間で、葬儀費用の負担について協議する場合には、葬儀費用の明細の提出を求める必要があります。 - 香典の扱い
-
香典は、葬式費用の一部を負担し、遺族の負担を軽くすることを主な目的とする
相互扶助に基づく金銭その他の財物の贈与であり、香典の受取人は一般的には喪主と考えられています。
したがって、香典から香典返しの費用を差し引いた残額は葬儀費用に充当されたものと考えるのが合理的です。
そこで、相続人間で、葬儀費用の負担について協議する場合には、香典および香典返しの資料の提出を求める必要があります。
相続人間で合意ができないときには民事訴訟で解決する
上記、STEP1でも書きましたが、
葬儀費用は被相続人の死後に発生する費用ですので、遺産分割の対象とはならず、本来は民事訴訟手続で解決すべき事項です。
今回の事例のように、葬儀費用の明細や、香典等の資料をみせてもらえないとなると、遺産分割協議の中で解決することは難しいと考えられます。
まとめ・所感
相続で揉める場合、今回の事例のように葬儀関連で揉めて、その不信感が拭えず、遺産分割協議も揉めてしまい、係争となってしまった
というケースはたまに聞きます。
ご親族が亡くなり、ご心労が重なる中ということもあり、相続人間で一度ついた火はなかなか消すことができません。
今回の事例でも予防策としては、
昨今”終活”という言葉によって認知されている、葬式生前契約(ご生前にご葬儀の内容を決め、業者と契約を交わしておく)がありますので、ご検討されると良いと思います。