相続法改正!10年経過した後に遺産分割するとどうなるのか?

こんにちは。こうづ行政書士FP事務所 行政書士の髙津です。
令和3年の民法改正(令和5年4月1日から施行)の内容となります。
ご相談の実例をもとに、以下簡単にまとめました。

目次

ご相談事例

9年前に父が死亡しました。
相続人は80歳になる母、兄、それに私の3人です。
兄は、自宅購入資金として3,000万円を父から生前にもらっていますが、私は何ももらっていません。
私は母と一緒に父名義の土地・建物に住んでいます。母は、住んでいる土地・建物を私が取得すればよいと言ってくれています。
しかし、兄は父の遺産について、
母が亡くなってから両親の遺産分割を一緒にすればよいと言って、
遺産分割の話合いに応じてくれません。

兄弟関係が悪化することが嫌で先送りしているうちに、現在に至ってしまいました。
いつまでも放置できないので、きちんと分割をしようと思います。注意すべきことはあるでしょうか?

ご回答のポイント

  • 相続開始から10年を経過した後にする遺産分割は、原則として法定相続分によります。
  • 引き続き具体的相続分により遺産分割ができる例外も規定されています。
    相続開始から10年を経過した後であっても、相続人全員の合意により、具体的相続分による遺産分割は可能です。
  • 改正法施行前に相続が開始していた場合にも、この制限は適用されるので、注意を要します。
    ただし、経過措置があります。

ご回答

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相続法が改正された背景

相続が開始しても、相続人間で対立が強かったり、遺産が農地や山林等価値が乏しい不動産である場合など、理由はさまざまですが、相続人間ですぐに遺産分割手続がなされず、何年にもわたって放置されることは、珍しいことではありません。

しかし、被相続人が亡くなり10年、20年と経過していくと、当初の相続人も死亡し、相続人の数がどんどん増えていき、親族といっても、一度も顔を合わせたことがなく、中には行方不明の人物も現れ、遺産分割がいっそう困難な事態に陥ります。
遺産分割手続がなされず、明治時代の被相続人名義のままの土地があったり、所有者不明の老朽化した建物が管理もされずに長期間放置されたり、社会的にも、その対応に困難をきたしています。
このままでは、所有者が不明である土地・建物が増え続けることになるため、その解消の促進の一つとして、
相続法が改正され、具体的相続分による遺産分割について、
相続開始から10年を経過した後にする遺産分割は、原則として法定相続分によるとの制限を新たに設けました
この改正法は令和5年4月1日から施行されています。

また、時的制限を受ける事柄は、
・被相続人から受けた生前贈与等の特別受益
・被相続人への寄与分

の2つです。

つまり、事例でいいますと、
父の死亡から10年経過してから遺産分割協議をしようとすると、相談者の私は、
兄の特別受益の主張ができなくなるということです。
長期間を経ると、特別受益や寄与分の有無を立証する書類等も散逸してしまいます。
この2つについて、時的制限をすることにより、遺産分割手続を促進させることを意図したものです。

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例外について

10年の期限の制限については、以下の2つの例外があります。

① 相続開始の時から10年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産分割の請求をしたとき。
遺産分割の請求手続(審判・調停の申立て)は、相続人のいずれかがしていれば、
請求手続をしていない相続人を含む相続人全員との関係で、具体的相続分により遺産分割が可能になります。
なお、相続開始時から10年を経過した後に遺産分割の請求手続の取下げをする場合には、相手方の同意が必要と改正されました。
10年経過前の取下げは、これまでどおり相手方の同意は不要です。

② 相続開始の時から始まる10年の期間の満了前6か月以内の間に、遺産分割の請求をすることができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から6か月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産分割の請求をしたとき(民904の3二)。「やむを得ない事由」の有無は、一人一人の相続人ごとに個別に判断されます。単に被相続人が死亡したことを知らなかっただけでは該当しません。被相続人が長らく生死不明であったため、死亡したことを知り得なかったなどの客観的事情が必
要です。

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相続人間の合意

10年を経過しても、相続人全員の協議により法定相続分を修正し、
具体的相続分に基づく内容による遺産分割を成立させることは、当然可能です。

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経過措置

改正法の施行日である令和5年4月1日前に相続が発生した場合にも、相続開始から10年を経過した後にする遺産分割は、
原則として法定相続分によるとするルールが適用されますが、
経過措置により少なくとも施行日から5年の猶予期間が設けられました。
令和5年4月1日までに相続開始から既に10年を経過していた場合であっても、
令和10年3月31日までの期間内であれば、これまでと同様、具体的相続分による分割を求めることが可能です。
5年の猶予期間内に10年の期間が経過する場合も、令和10年3月31日までの期間内であれば、
同じく具体的相続分による分割を求めることが可能です。

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10年経過後の遺産分割手続

10年経過後の分割手続は、これまで同様、遺産分割手続によります。共有物分割手続ではできません。
ただし、遺産が被相続人の単独名義ではなく、共有物不動産である場合、相続開始から10年を経過した場合には、
遺産である共有持分について、遺産分割請求があり、かつ、相続人が共有物分割手続に異議の申出をした場合でない限り、
遺産である共有持分の解消も含めて、共有物分割手続で一括して共有関係を解消できる制度が新設されています。

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事例について

相談者に寄与分の主張が可能な場合、他の兄弟に特別受益がある場合など、具体的相続分による遺産分割が可能な場合、
相続開始後10年を経過していたとしても、令和5年4月1日から5年を経過する前であれば、
具体的相続分による遺産分割がまだ可能
です。

まとめ・所感

上記相続法の改正により、遺産分割はこれまで以上に早い時期から、具体的相続分による遺産分割を求めて協議が開始されることが多くなると思います。
また、事例のようなケースで特別受益があった場合、その主張については当事者間で話し合ってももめることが多く、調停等に進んでいくことになるでしょう。
特別受益や寄与分の主張には期限があることを、充分に注意していただければと思います。

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