遺言書で特別受益の持ち戻しの免除の意思表示をするには?遺言書案文を用いて解説します!

こんにちは。こうづ行政書士FP事務所 行政書士の髙津です。
いきなり、難しい題名ですみません。
特別受益の持ち戻しの免除とは、
『生前に行った贈与や遺贈を加味しないで、残った遺産だけで遺産分割をしてください』と相続人に意思表示することをいいます。
以下、わかりやすくご説明ます。

目次

特別受益の持ち戻しの免除とは?

特別受益の持ち戻しの免除とは、遺言者(被相続人)が、生前に特定の相続人に財産を贈与した場合等に、
相続発生後にその贈与を加味せずに、残った財産だけで遺産分割するよう、相続人に意思表示をすることです。
ただややこしいのが、この意思表示をする方法には、制限がないのです。
書面で残すことが要件になっているわけでもありませんし、黙示の意思表示でも認められることもあります。
ですが黙示の場合、認めてもらうために、相続人同士で争うことになるでしょう。
意思表示の方法はやはり、明示(書面に残すこと)をおすすめし、ここでは明示について、以下ご説明します。

まず、民法の条文の抜粋をみてみましょう!

2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
3 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う

3に書いてありますが、意思を表示したときは、その意思に従うとあります。
例えば、遺言書でこの持ち戻しの免除の意思表示をしたときは、相続人はその意思に従うということです。

では遺言書にどのように書けばいいでしょうか?以下が例文です。
ここでは、生前に特定の相続人に贈与していたときの遺言書の例文となります。

第〇条
遺言者は、長女A(昭和〇〇年〇〇月〇〇日生)に対し令和〇〇年〇〇月〇〇日に婚姻のための持参金として贈与した金600万円について持戻しを免除する。

上記にも書きましたが、この贈与に関する持ち戻し免除の意思表示は、特別の方式を必要とせず、贈与と同時にされる必要もなく、
生前行為によっても遺言によっても差し支えないと考えられています。
ですが、紛争を回避するために、遺言により明示的に行っておくことが望ましいです。
また、意思表示をすればいいわけですので、付言事項にこの持ち戻しの免除を記載しておいても良いです。
付言事項については、以下コラムをご参照ください。

持ち戻し免除の意思表示の推定規定とは?

上記、民法条文には続きがあります。

4 婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。

簡単にいいますと、以下3つの要件すべてに該当する場合は、意思表示を明示しなくても、持ち戻しの免除になるということです。
①婚姻期間が20年以上
②受贈者は配偶者
③居住用の建物又は土地の遺贈又は贈与

20年以上連れ添った配偶者に居住用不動産を贈与しても、
その贈与は遺産分割時に加味せず、配偶者固有の財産として、遺産分割をしてくださいという規定です。
これは平成30年の民法改正により、配偶者を保護する規定として新設されました。
一緒に住んでいた家まで持ち戻しされてしまっては、残された配偶者の生活が困る可能性があり、それに配慮した規定です。

遺留分にご注意!

上記通り、遺言者(被相続人)には、持ち戻し免除の意思表示が認められています。
ですが、遺留分算定の基礎財産には当該特別受益を含めなければなりません。
つまり、持ち戻し免除意思表示は遺留分には勝てないということです。
民法条文の抜粋をみてみましょう。

被相続人が前2項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。

遺留分は、被相続人の財産形成に潜在的に貢献してきた人(相続人)の利益を守るために、ある制度です。
つまり、持ち戻しの免除の意思表示をした人(被相続人)の財産形成に潜在的に貢献した人もいるわけですから、
遺留分>特別受益の持ち戻しの免除となるのは、違和感がありませんね。
遺留分については、以下コラムをご参照ください。

特別受益に該当する生前贈与があった場合には、その贈与があった年中の贈与税の課税価格とします。
なので、特別受益に該当する生前贈与は、相続税の課税対象とはなりません(暦年課税における相続開始前7年以内の贈与及び相続時精
算課税における贈与を除きます。)。

まとめ・所感

特別受益は、相続人同士で揉める火種になることが多いです。
とはいえ、例えば、孫や甥姪等に贈与してあげたいと思うのは、お気持ち的に自然なことで、揉めるのが怖いからと言って抑制するものでもないと思います。
そのときのお気持ちは是非実現してあげてほしいです。
要は、きっちり遺言書等で明示すれば、そのリスクは大きく軽減できるわけですので、実現するだけでなく、対策までしっかりとしておくことが
相続人とそのご家族のためになるということです。
お悩みやお困り等ございましたら、お気軽に当事務所へご相談ください。

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